モルディブ小学校隊員の日記 〜今日の空振りは明日への素振り〜

青年海外協力隊モルディブ小学校教育隊員の日記です。がんばります。

小さな国の大きな力 ~映画「南の島の大統領 -沈みゆくモルディブ-」を観て①~

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Amazon.co.jpより引用。現在アマゾンプライムで観れます。

イード期間の休みを使って前々から見ようと思っていた2013年公開の映画「南の島の大統領ー沈みゆくモルディブー」を観ました。

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モルディブを扱った映画がいくつあるかわかりませんが、恐らく日本語で観られる唯一のモルディブ映画じゃないかなと思います。

 

この映画は表題の通り、撮影当時(2009年)のモルディブの大統領モハメド・ナシード氏の大統領就任前から2009年にコペンハーゲンで開催された第15回気候変動枠組条約締結国会議(COP15)までの日々に密着したドキュメンタリー映画です。COP15は日本の当時の首相だった鳩山由紀夫氏が温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減すると掲げて参加したことで少し話題になったことを覚えている人もいるでしょう。

 

 

氏はジャーナリストとしてモルディブ民主化運動を推進し、政治犯として何度も投獄されましたが、それにも負けず、モルディブ初の民主的な選挙を経て2008年に大統領に就任しました。

ナシード氏が大統領に就任するまで約30年もの間、独裁政権が続いていた当時のモルディブの政治は課題が山積していました。その中で氏は、第一課題として海面上昇の対策に取り組んでいくことを決めました。

 

 

モルディブは環礁のみで形作られた国で、平均海抜が1.5mを下回っています。当時の海面上昇の状況を鑑みると、地球の平均気温があと2℃上昇すると国土全体が海中に沈んでしまうと言われています。

現在もモルディブでは各地で護岸工事や埋め立てが進められていますが、いずれ全てが水の底になってしまいます。海面上昇自体をとめるしかモルディブの国土を守る方法はありません。

しかし、この問題はモルディブだけで取り組むにはあまりにも大きすぎる問題で、全世界で取り組まなければ解決ができません。

 

海面上昇は一般的にCO2などの温室効果ガスによる気候変動によって引き起こされていると考えられています。氏はCOP15にて、この温室効果ガス削減を全世界で取り組むことを合意するために奔走していきます。

 

 

 2時間にも満たない映画ですが、この映画を通してナシード氏の「小国の大統領」としての行動に感銘を受けました。

温室効果ガス削減のためには当時世界最大のCO2排出国である中国をはじめ、インド、アメリカ、ブラジルなど大国の協力が不可欠です。

特に当時、大きな経済発展の最中であった中国やインドにとってはCO2排出量の削減は正直なところ発展の妨げになるため、乗り気ではありませんでした。他の先進国から指摘されても「何で自分の国だけ」という思いにもなるでしょう。しかし、もしモルディブのような、大国にとっては取るに足らないような小国の訴えを切り捨ててしまえば国際社会からの非難を浴びかねません。

ナシード氏は、その小国の利点を生かして「対抗」するのではなく、「協力」を促していくために各国の首脳や高官との対話、メディアへの出演に取り組んでいきます。

 

モルディブと同じような立場にある島国に対しては当事者として削減に向けて共に声を上げていくよう呼びかけ、一方でインドや中国に対しては大国として削減を推進するリーダーシップを発揮してほしいと訴えかけます。

何においても国際的な合意を取り付ける際にはとかく「先進国」対「途上国」という構図になりがちです。その中で、氏はどの国を相手にしても氏は対立を選ばず、建設的な議論や表現を心がけて行動していきます。また、氏が理想をもちながらもどの国も取り組める現実的な妥協点を探りながら国際的な協力関係を形成しようとする姿勢は、中立の立場にある小国の外交の一つの模範とも言えると思います。

 

最終的に当初ナシード氏が目標に掲げた目標には届かなかったものの、アメリカや中国も含めた締約国全てがCO2排出削減に取り組んでいくことへの合意を得る結果になりました。

これは2015年に採択されたパリ協定に引き継がれていきます。この協定については残念ながらトランプ政権が離脱を表明(実際の離脱は来年とのことです)し、各国から非難を浴びていることも記憶に新しいところです。

 

 

「どんなに小さな国であっても世界を変える可能性をもっている」

 

ありきたりな表現ですがこの映画を見てそんなことを教えられたような気がします。

 

 

ナシード氏は2012年に大統領を辞任(軍事クーデターが原因と言われています)し亡命しますが、2018年に政権が変わり、現在は議会の議長として再び政治の場に戻ってきています。モルディブのため、世界のために再び活躍されることを期待しています。

 

 ちなみにこの映画に楽曲を提供したレディオヘッドのフロントマンであるトム・ヨークはナシード氏とも撮影期間中に会っていたらしいです。レディオヘッドは僕の好きなバンドの一つでもあるので偶然にも繋がっているのが少しうれしいですね。